物ではなく人に対する供養、たとえば故人を思って仏壇の前で手を合わせたり、先祖代々のお墓参りに行ったりといった、いわゆる追善供養は誰にとっても身近なものでしょう。しかし物供養となると体験したことのない方も多いのではないでしょうか。今回はそんな物供養についての記事です。
昨年、私の登山靴が「いよいよ靴としての寿命が来たな」という頃合いになったので、長野県上田市にある日蓮宗明玉山『長光寺』で供養のお焚き上げをして頂きました。お寺に登山靴をもちこんだ時の記録はこちらです。
お焚きあげ後にお寺から「無事にお焚きあげが終わったよ」という旨の書類が郵便で届きましたので、それらを確認しながら物供養について書いていこうと思います。
初めて買った登山靴の供養
「登山靴って2万もすんの!? 高けー!泣」
私が初めて登山靴を買った時の感想がこれ。登山靴で2万円は全く驚くほどの値段ではありませんが、山登りを始めたばかりの私にとっては高い買い物だったのです。
そんな気持ちで買った登山靴とまさかこれだけ長い付き合いになるとは予想もしていませんでした。当時住んでいた信州の山々に限らず、日本一周に出てからは全国の山々をこの登山靴で登ることになります。
6年ほど使った2023年夏、さすがに靴底が減ってきたのでに新しく登山靴を購入。この時は北アルプス登山前で、穂高の岩稜地帯を歩くのにグリップ力が衰えた登山靴では心配だったのでようやく新調したんですよね。
そうすると困るのが使い古した登山靴の処分です。捨てようと思えば単純に燃えるゴミに出してそれでおしまいなのですが、ここまで付き合ってもらった装備をただゴミ箱に突っ込むというのはどうにも忍びない……。
ということでしっかり登山靴も供養してもらおうと思い、物の供養を請け負っている日蓮宗明玉山『長光寺』へ預けることに。知識として「物を供養することがある」というのはぼんやりと知ってはいましたがまさか自分の物を供養してもらう日が来るとは驚きです。
ただこの2023年夏は山と神社仏閣をテーマに自転車で日本一周をしている時だったので「お寺で登山靴を供養してもらう」という発想が自然と出てきたのかもしれませんね。もちろん「物供養をお願いするほど思い入れのある品」あってこその事ですが。
長光寺での物供養
「長野県」「物供養」で検索したらトップに出てくるのがこの長光寺。ただ目に入るのは「人形供」「お焚き上げ供養」「遺品供養」といったワードだったので登山靴を焚きあげてもらえるか少し不安でしたが、調べてみるとなんでもやってくれるようで安心したのを覚えています。御守り、お札、仏壇、位牌、時計、洋服、眼鏡、手紙etc……。
私は一応事前にお寺へ電話して「登山靴を焚きあげてもらえるかどうか」「料金はいくらか」を確認しました。この登山靴のサイズだと焚き上げに5000円かかります。結構いいお値段するので怯みましたね(・`_´・)
お焚き上げといっても預けたその日に行うわけではないので、訪問した日に私がやる事は住職さんに靴を渡すことくらい。月に一度、寺に持ち込まれた物をまとめてお焚き上げするようです。希望があれば「お焚き上げ証明書」を送付していただけるようなのでお願いしておきました。
そしてこちらが長光寺から届いたレターパックです。
中身は封筒と書類が二枚。まずは書類を確認しましょう。
この書類がお焚きあげ証明書なんですね。明玉霊神のマスコットキャラがかわいい。明光寺は公式サイトも気合入ってて良いですね。https://m-chokoji.com/
上記の通りお預かりしました大切なお品を祈祷本尊 鬼子母神様の御宝前に於いて「抜魂祈祷」にてお魂抜きを行い、丁重にご供養をしてお焚きあげしましたことをここに証明します。
逝ったか、登山靴よ。
「抜魂祈祷」にてお魂抜きを行い
つまり登山靴に宿る魂を抜いてからお焚きあげをしたという事。人間ももちろん昇天してから荼毘に付されるわけですが、物も同様に魂が抜けたあとに火にくべなければただの火あぶり。付喪神という概念があるように、使い古した物に霊性が宿るという考え方は日本人には当たり前に備わっている感覚なのかもしれません。だから愛用したものをただ燃えるゴミに出すのは心苦しい気持ちになるのでしょう。
物を単なる物体にしなければいけない時に行われる魂抜きの例としては仏像がドンピシャです。博物館などで仏像が展示されることがありますが、あの仏像は事前に「性根抜き」という、像から仏魂を解く儀礼が厳重に行われています。
こうしてみると物供養というのはお寺だけで行われているもののように感じますが神社でも広く行われていますよ。
……話がそれました。今度は封筒の方を開けてみましょう。
封筒に入っていたのは御守り。裏には私の名前入りです。これは誰でももらえるものなのかな? 登山靴をお渡しするときに自転車で日本一周をしていることを伝えたので特別にもらえたのかも分かりません。ありがたいことです。
さいごに
今回、供養を行った登山靴は何の気なしに使っていたつもりでしたが、いざ焚きあげとなるとしんみりした気持ちになりました。自分が思っていた以上に思い入れがあったようです。
「登山靴って2万もすんの!? 高けー!泣」
それを高く感じたのは当時の私にとって登山が偶の事だったからでしたね。3ヶ月に1度登ることがあるかないかという趣味とも言えないアクティビティ。重い出費に感じたものです。
そんな私も登山靴を買って5年目にようやく山登りに火がついて、ついには日本一周にまで出る始末。そうするともう日々は山、山、山でした。この登山靴で日本中の山を登ったあとに、購入した当時を振り返って見れば
「登山靴2万円!? ……いい買い物だったね」
と今は思います。値段以上の経験をさせてもらいました。ありがとう。
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