【92日目】最も遠い百名山② 大嵐の幌尻岳(2022-8-18)

さあぶっ壊れたチロロ林道を越えてなんとか本来の登山口までたどり着いた昨日。
本来は駐車場となっている場所にテントを張って本日の登山に備えました。
ここに来るまでの道はほぼ断絶しているので絶対車は入って来ませんしね。

百名山最難関の幌尻岳に挑戦するという事で朝からドキドキしております。
それでは92日目行ってみましょうか。

目次

3:30 登山開始

まだ日も出ない内にテントを撤収して行動開始です。
何処から登ってもめちゃくちゃ時間のかかる「最も遠い百名山」こと幌尻岳。
いくら早く起きても早すぎるという事はありません。

今回私が進むチロロ林道コースもだいたい18時間強かかるロングコース。
3時に出たとて下りてくることは夜の21時過ぎ。
とても日帰りでは難しいです。当然テント泊するつもりですけどね。

ゲートの横を抜けていざ入山。
もうホラゲのオープニングじゃん……。
入ったら出られなくて脱出するために四苦八苦するタイプのホラゲですよ。

ここはヒグマの巣窟 日高山脈なのでリアルな意味でホラーな場所ではありますけどね。暗い中ヘッドライトだけを頼りに夜の山を歩くのは中々にスリリング。歩き始めて1時間ほどでようやく明るくなってきました。

水量は……思ったほどでもないですね。
せいぜい膝くらいの水深です。続行します。

序盤数回の渡渉は岩の上をはねて濡れずに通過。
しかしすべての渡渉がそうそう上手くはいかず何度か川にドボン。
そうしたらもう怖いものなしですよ。

靴を濡らすまいとすると渡渉の難易度は跳ね上がりますが、ハナから濡れることを覚悟しているならば渡れるルートは無限にあります。

ドボンしてからは川に足突っ込みまくりでサクサク渡渉していきました。
北海道登山のラスボス、幌尻岳を快適に登ろうとはもう思いません。゚(´つω•`。)゚。

7:15 トッタの泉

4時間ほど歩いて給水ポイントトッタの泉に到着。4時間て。
大抵の山ならこの時点でもう山頂にいるのですけどね。片道4時間の山って結構長丁場ですよ。

それだけの時間歩いてまだまだ稜線にも出られないんですから日高の山は深い……。

ちなみにこの先に水場はないので面倒ですが全ての水筒をここで満杯にしておきます。

さらに1時間ほど歩いてようやく見晴らしがよくなってきました。
樹林帯を抜けましたね。

見渡す限り山、山、山。
広大すぎます日高山脈。

なんだこの金庫岩みたいな四角の岩は。
そして後ろに見えているのは幌尻岳では!?

ついにその姿を拝むことができました!




あそこまで回っていくの!?

8:55 ヌカビラ岳

ヌカビラ岳到着!
とうとう稜線上に出ました。ここからは尾根歩きで幌尻岳に行きます。
後ろに見えている山が幌尻岳ですね。

なんとまあ雄大な。

威厳たっぷりの山容。
今日あの頂に立てるのかと思うと興奮してきます。

天気は曇りですがヌカビラから幌尻岳の姿が拝めて良かったです。
斜里岳のように姿すら見られないことも想定していましたから。

実際この後すぐ戸蔦別岳から回ってきたガスに覆われてしまいました。滑り込みセーフ。

明らかにテントを設営した跡があります。
こういう痕跡のある場所がヌカビラ~北戸蔦別の間にいくつかあったのでテントを張る場所には困らなさそうですね。

コースタイムを見るとヌカビラ~北戸蔦別間は30分ほどですが、こうして先を見ると果てしなく長く思えてしまいます……。

稜線上は電波が入るので最新の天気予報を調べておきましょう。

……嫌な予報だ。午後から天候が悪くなるようです。
既にもうガスっていますからね。

雨が降る前に幌尻岳登ってしまいましょう。






北戸蔦別から戸蔦別に向かう登山道で、昨日駐車場でお会いした登山者2人組とお会いしました。私が追い抜かれた形ですね。結構早く出たと思ったのですがお二人とも健脚で歩くペースが速い( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )

ちょっと話して「今日の寝床をどこにするか」を訪ねてみます。
私と同じように道中いくつかあったテント設営跡らしきところに泊まるとのこと。

登山口がほぼ全滅している今の状況で幌尻岳に登りに来ている人間は私だけだと思っていたので心強いです。

また夜会いましょう、と挨拶してここでは分かれました。

11:10 戸蔦別岳

戸蔦別岳到着!
ようやく残すピークは大本命幌尻岳だけです!

が……。

この戸蔦別から幌尻岳までのギャップよ。
幌尻岳に行った後またここを戻らないといけないなんて。゚(´つω•`。)゚。

このギャップが肩幅広い幌尻岳の男らしい山容を演出している訳ですが登山する立場になると勘弁してほしいですね。

幌尻岳はご覧のように圏谷(カール)を持っています。
ここに雨水がたまると沼が7つ出現することから七つ沼カールと呼ばれています。

この山脈は……あまりにもデカすぎる。

戸蔦別を下って幌尻岳に至る登り。
ここがとてもツライ。

何がツライって今下った戸蔦別をまた帰りに登り返すところです。
戸蔦別~幌尻岳間のギャップは急すぎます( ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )
間違いなくチロロ林道コースの核心部でしょう。

幌尻岳に登る前に疲れてしまって休憩がてら七つ沼カールを観察です。

シカしかいませんでした。それでいい。クマなんて会わないに越したことはありませんからね。どちらにとってもいいことはありません。


休憩もほどほどにして先へ進みましょうか。
……天候がいよいよ怪しくなってきました。

13:40 幌尻岳 登頂

ポロ(大きな)シリ(山)で大きな山という意味。日高の霊山とされている。

戸蔦別から2時間半!!!

とうとう念願かなって幌尻岳登頂です!
しかし登頂した時点での正直な気持ちとしては



全くうれしくない!(メ゚皿゚)



なぜならば危険なのはここからだからです。
行きはよいよい帰りはこわい、まさに登山のためにある言葉ですね。

登頂の喜びは下山して初めて味わうことができるもの。
ましてや最難関幌尻岳。このあとはあの戸蔦別の登り返しもありますし何より


とうとう天気が崩れてきました!


雨はともかく風が強い。
帰路に不安を抱かせるには十分。

また、登山アプリYAMAPのGPSが狂っていました。
幸い視界が効かなくとも登山道自体は明瞭ですから道に迷う事はありませんが……

イレギュラーが重なると気が萎えるものです。

とにもかくにも早くテントを立てて行動を終了したい気持ちに駆られます。

エッジの効いた戸蔦別~幌尻岳間の稜線。
東の七つ沼カール側から吹き付ける風が尋常ではありません。
真っすぐ立つこと自体が困難。

写真では決して天気が悪そうには見えないのですけどね……。
とてつもない風に向かってカメラを構えています。

15:50 戸蔦別岳

幌尻岳山頂から約2時間……。
登りと風との格闘に消費する体力が多すぎました。ようやく戸蔦別に着いたか、というような感傷

は一切なし。気づいたら戸蔦別にたどり着いていました。先を確認するような余裕がなかったんですよね。目の前の一歩に集中していないととてもじゃないですけど進めませんでした。

一歩踏み出すために一瞬片足立ちになりますが、その瞬間体を持っていかれる爆風。
足を普通に浮かせてあることもできません。風をもろに受けるトラバースではほとんどすり足の様な歩き方。こんな状況での登山は初めてです。

稜線は完全にガスの中。
核心部の幌尻岳~戸蔦別間をクリアしたものの全く余裕はありません。
気になるのは今日のテント場のこと。

この爆風……アタリを付けたテント場はどれも使用不可能なのでは(꒪꒳꒪;)


身一つでも倒されるような強風、そんな場所にテントなんて張れたものではありません。
でももしかしたらうまい具合に風が遮られる場所にテント場があったかも……という淡い期待を抱いてきた道を戻っていきます。

17:00 北戸蔦別岳

戸蔦別からさらに1時間。歩くペースが大幅にダウンしています。風は依然、爆風。先行しているはずの2人の登山客はいませんでした。ここ北戸蔦別にもテントが張れそうなスペースはあったのですがやはりスルーしたか……。私もここで張るのは自殺行為だと判断しヌカビラ岳まで戻ることにします。

そろそろ日暮れも近い……。
体力的にももう行動を終了したいところですがこのとてつもない悪天候。
寝床選びは慎重にしないと大事故を招くでしょう(๑-﹏-๑)

17:40 ヌカビラ岳

ここにも先行した二人の姿はありません。
でしょうね。ここまででアタリをつけていたテント場はどれもテントを張れるような状況ではありませんでした。風が強すぎる。今日、稜線上にテントを張るのは自殺行為。

となれば樹林帯に入ってビバークするしかありません。
しかし来る途中に樹林帯の中でテントを張れるようなスペースがあったか……?
ここにきて様々な不安が脳裏をよぎります。

悪天候である事。
日暮れ前にまだ寝床を確保できていないこと。
そんな時間帯に樹林帯に入る事。

そもそもこの先に先行した二人はいるのか? ということ。
もしかしたら見落としただけで稜線上のどこか風をしのげるスポットにテントを張っているかもしれない。もしくは歩くペースが速かったので無理を押して今日中に下山しているかもしれない。

そういう風に考えるとこんな時間帯に悪天候の樹林帯に下っていくリスキーな行為を取ろうとしているのは自分だけなのではないかという不安が押し寄せてきました。

こういう時に自信を持っていない人間は弱いですね。そもそもこの幌尻岳には一人で入るつもりだったはずでしょう。あんなぶっ壊れたチロロ林道通ってくる人間なんていないと思って来たんですから、どんな状況になっても一人なのは覚悟していたはずなのに……。

そんな状況で他にも登山者がいるという事が分かってしまったら安心してしまったんですよね。覚悟が溶けた。自分以外にも人がいるという安心感から、何だかこの登山がイージーになったと錯覚してしまいました。


最悪、誰かに助けてもらえるつもりでいたのか。愚か者め(。◔‸◔。)


今の状況でできる最善を行うしかありません、どんな時も。

稜線上にテントを張るのはあり得ない。
今日中に駐車場に下りることも不可能。

となれば樹林帯でテントを張る、ハナッからこれで良し。
問題はテントを張れる場所があるかです……。

道中見かけた広いスペース……。




……。




…………。







トッタの泉……?

ここだ。

この水場付近にはテントが張れるフラットな場所がありました。
トッタの泉からヌカビラ岳までは登りで1時間半ほど。

下りなら1時間かからずにたどり着けそうです。
そこに行くまでにいい場所があればそこに張ればいいですしね。

何にしろ進んだ先にしか活路はありません。
行きますよ!




50分ほど樹林帯を下ります。
結局道中にテントを張れるような場所はありませんでした。

当初の予定通りトッタの泉までやってきたらなんと……!




テントが張ってある!



当たりをつけていた場所が先を越されたという感情より、人がいたという安心感の方が勝りましたね( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )

テントの外から「お疲れ様です!」と声を掛けます。

お二人もつい30分ほど前に設営を終えたところだそう。
ちょうど私がどうしているか心配してくださっていたようです。

トッタの泉にはもうテントは張れませんが、このすぐ下にもまだテントが張れるスペースがあるのだそう。確かにあったような……?

とりあえず私はそこを目指して再び進んでいきました。
なんだかんだ言って他の人がいる安心感はすさまじいですね。

いよいよ暗くなってきましたが足取りは軽いです。
特にトラブルもなくテントが張れそうな平地を発見。

急いで設営しテントの中に避難しました。
装備は全てビショビショです。しかし風が無いというだけで凄まじい安心感。

間違いなく私の登山経験の中で最も厳しい一日でした。
明日は午前中は晴れる予報ではあったので朝方には風も収まっていると思いますが……。

とりあえず今日は食事をしてもう寝ましょう。
明日万全の態勢で下山できるように。

嵐の日高山脈の中で夜を迎えます。






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