2023-7-30
日本で最も危険な一般登山道とされる『奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳』の縦走コース。憧れに憧れた北アルプスのルートです。これまで日本一周の旅に出て多くの縦走をやって来ました。どれも素晴らしい山行でしたが心の中では「ジャンダルム程ではないのかもな」と思う事もあったり。ジャンダルムというのは憧れと同時に呪いでもあるんですよね。その呪いを今日、解くことにしましょう。裏銀座から始まった北アルプス大縦走6日目。その締めは日本最難関の縦走路でキメます(・`_´・)
一般登山道最難関『奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳』
ジャンダルム
その意味は『憲兵』。主峰の前にそびえ立つ前衛峰という意味の登山用語ですが、この国においてジャンダルムという名が差すのは一つでしょう。
それ即ち一般登山道最難の縦走路『奥穂高岳~西穂高岳』の間にそびえ立つ標高3136mの峻峰『ジャンダルム』です。
奥穂高岳と西穂高岳を結ぶ稜線は周囲から見るとノコギリの歯のような形をした峻険な岩場。冗談のような険しい道が多い穂高の中でもこの縦走路は最も長大で厳しいコースになります。
例えば、「その山を登るのにどれだけの体力・技術が求められるか」を示した山のグレーディングマップ。
昨日通過した大キレットや涸沢岳の技術的難易度は5段階中最高のEランクでしたが、『奥穂高岳~西穂高岳』はというと
ランクが割り当てられていません。Eランク以上の評価不能という評価になります。
わざわざ名指しで危険が伝えられているくらいのコースです。他のエリアであれば当たり前のように鎖がかけられている場所であっても自然のまま。浮石も多く落石のリスクが常に付きまといます。
ここを渡り切るには長時間行動できる体力と浮石・落石に対応する集中力が求められます。その分、踏破した後の達成感は計り知れません。危険ですが登山者の心をつかんで離さない。そんな憧れの縦走路なのです。
裏銀座のスタート地点である高瀬ダムを出発した時からこの縦走をゴールとして見据えていました。しかし毎年のように死亡事故が発生する国内最難関のコース。憧れだけで立ち入っていい領域ではありません。こんなコースを歩く資格が自分にあるのかというのが一番の気がかりでした。
そこで設定したのが槍ヶ岳、大キレット、涸沢岳という高度感たっぷりの難路。
これらに恐怖を感じず、危なげなく通過することができたら縦走の最終日にジャンダルムに挑戦しようと行程を組んでいました。そしてとうとう涸沢岳を越えて穂高岳山荘にまでやってきたのが昨日のこと。自分に課した課題はすべてクリアしました。気力体力ともに十分! となれば挑戦するしかありませんね(・`_´・)
裏銀座から始まった北アルプス縦走、その締めは『奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳』の縦走でキメます!
北アルプス穂高連峰縦走二日目
3:00 起床
勝負の日がやって来ました。目標は国内最難関『奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳』の縦走です。そんな場所に挑戦するのかと思うと興奮して眠気は吹っ飛びますね。
もう奥穂高岳に取り付いている方もチラホラ。私も準備を整えて出発せねば。
日の出も美しい。挑戦の日に相応しい良い朝日です。
赤く染まるモルゲンロートの奥穂高岳。良い日になりますよ今日は( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )
当然、山荘で水を汲んでから出発するのですがフルチャージするかどうかで少し迷います。今日通る道はとても険しい岩場ですから荷物はできるだけ軽くしておきたいので。
そのために大量に持ってきた食料も昨日まででほとんど食べて減らしたんですからね。残すは今日の昼食と行動食暗いといったところです。
……とりあえず水は3L持っていきますか。どうしても邪魔になると思えば捨てることもできますし。最近は日が出るととても暑くなるので水を切らすのもハイリスクですからね。
では出発しましょう( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )
5:10 穂高岳山荘
山荘の広いテラスの橋から奥穂高岳に取り付きます。ジャンダルムという難峰が控えていると奥穂高くらい前哨戦……みたいな気持ちになりますが奥穂高登山においてはここからが難所。
梯子あり岩登りありで普通に危ないので油断せずに行きます。
遠くジャンダルムにはもう登頂している方々がいますね。
……集中集中。どうせ私もあそこに立つんですからうらやましがることはありません。
振り返ると槍ヶ岳がはっきりと見えます。槍を目指して歩き始めたこの縦走。槍に見送られながらゴールと行こうじゃありませんか。
岩の散らばった道をザクザクと歩いていきます。これまで歩いてきたエリアよりもさらに荒々しく感じる山肌です。
ジャンダルムへの稜線がはっきりと見えてきました。
迫力満点。本当にあのジャンダルムと繋がっているんですね奥穂高は。
祠が見えてきました。あそこが奥穂高岳の山頂です。
5:50 奥穂高岳
奥穂高岳登頂!
標高3190mという日本第三位の高山。ここに来るだけでもかなりの大冒険ですよ。
展望は最高の一言。西鎌尾根、槍、南岳、北穂、涸沢。これまで歩いてきた道が一望できます( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )
もちろんジャンダルムもクッキリ。
今そこに行くからなァ……!
その前に祠に安全を祈願してからジャンダルムに挑むとします。
祠から降りようとしたら近くにいたお姉さんが写真を一枚撮ってくれました。ありがたいです。ここで自撮りは至難の業ですからね。お礼に私もカメラマンを引き受けて撮影のお手伝いをさせてもらいました。
登山者同士の交流が終わった後はいよいよ戦いの時です。立て札の文言が怖い。兜の緒を締め直すとしましょうか。
6:25 ウマノセ
奥→西穂の難所はいくつもありますが核心部と言える最難所はなんと奥穂高岳から歩き始めて10分もしない内に遭遇します。
それがこのウマノセです。カメラは真下に構えています。ここの通過が奥→西穂の核心部。岩場すべてに言えることですが下りの方が怖いのでこの縦走は西→奥穂の方が多少良心的です。そちら側からの方が登りが多く、このウマノセも登りで攻略できますからね。
現場にいる私はいまさらそんなことを言い出してももうどうにもなりません。ただ集中して事に当たるのみです。
ここがウマノセのポイント。岩が層になっているここに足を置かないと下降できないんですよね。YouTubeで予習した通りです。
ヒーコラ言いながらなんとか下り切りました。下から見たウマノセがこれです。いやこれは登りでもスリリングでしょう。゚(゚^ω^゚)゚。
まだまだ気は抜けませんがウマノセを越えたことで少し気が楽になりました。本当にまだまだ気は抜けないのですが。
もう遠目には何が何だか分かりません。どういうルートを行くんだここは。
6:40 ロバの耳
次なる難所はロバの耳と呼ばれる岩峰。絶壁を立てに登り、
横に歩きと、どうなってんだいこりゃ:;(∩´﹏`∩);:
崖を歩けるよう進化したヤギを連想してしまいます。
いったん大きく下って鞍部に立ったたら、ここからがさっき見た鎖を使って登り、横に渡りのスリリングルートです。ここに下りてくるのもだいぶ神経使いましたけどね。浮石だらけで落石させないように注意が必要です。
鎖を使って岩壁をよじ登ったらさっきヤギみたいと思ったトラバースです。私もヤギになるとしましょう。
というか無性に剱岳別山尾根コースの5番鎖場を思い出してしまいますねここ。
ヒヤヒヤのロバの耳を突破したらようやくジャンダルムへ取りつきます。
ジャンダルムは縦走ルート上に無いので必ずしも登頂する必要はありませんがここまで来たら登らない手はありません。ジャンダルムへの分岐から荷物を置いてサクッと登頂する人が多いみたいですね。大体往復20分くらいです。
7:40 ジャンダルム
ジャンダルム!!!
ジャンダルム(´;ω;`)
本当にジャンダルムの頂に立っているのか私は!。゚(゚^ω^゚)゚。
なあ焼岳!
槍!
笠!
鷲羽! 水晶!
赤牛ィ……!
奥穂!
いま私はジャンダルムの頂に立っているよ!泣
なんて素晴らしい景色。これがあの難峰ジャンダルムからの景色ですか……。
このジャンダルムの頂にいる天使に会いたくって会いたくってたまらなかったのです。念願叶いましたよ。
遠く富士山まで見えているじゃないですか。憧れのジャンダルムにこんないい天気の日に登れるなんて嬉しすぎます。
同じくジャンダルム初登頂というおじさんと喜びを分かち合いながらお互いに天使とのツーショットを撮ってもらいます。嬉しくなってしまいますよね。簡単には来れない憧れの山にとうとう登れたんですからテンションの一つや二つ上がるというものです。
名残惜しいですがそろそろジャンダルムを下りて進まなくては。ここで味わった感動も無事に西穂高岳まで歩き通さなくては誰とも分かち合えないのですからね。お祭り気分はいったんお終いです。
ジャンダルムを越えても「アホか?」というような危険な道は続きます。本当、テント泊装備で来るところではありません(^-^;
こことか鎖が垂れていなければ登山道だとは思いませんからね。゚(゚^ω^゚)゚。
崖じゃないですか、シンプルに。
ジャンダルムから天狗のコルまでは大きな下り。
下りが本当に多くて神経使います奥→西は。
9:05 天狗のコル
ここまでの下りがかなり浮石がひどかった。ガレッガレなので下に登山者の姿があるときには下りたくなかったですね。人が掃けるの待ちでかなり時間を使ってしまいました。
こんな浮石だらけの場所を下ったわけですからね。精神的に疲れたので少し休んでいきましょう。
ここ天狗のコルは奥穂~西穂間において、唯一岳沢までのエスケープルートが伸びるポイントです。その岳沢までのルートも破線ルート(一般登山道と比べてリスクの高いルート)なので楽な道では無いのでしょうけど。
休憩を終えたら次は天狗ノ頭までの急登。
急登というか半分登攀です。鎖を補助に登っていきます。
9:35 天狗ノ頭
天狗ノ頭は岩屑が折り重なったピークで広さにも余裕があります。休憩適地ですね。少し早いですがここでお昼ご飯にしようと思います。
昨日穂高山荘で今日のお昼分も買っておいたんですよね。穂高岳山荘名物の朴葉ずしのお弁当です。弁当箱はとっぱらってジップロックに移しておきました。
こんな贅沢な景色を眺めながらお弁当を食べられるなんて……
陽射しは殺人的に強いですけどね(^-^;
タオルを頭にかけながら休憩しています。
お腹いっぱいになったら行動再開。朴葉ずしのお弁当、ボリュームかなりありますよ( •̀ᴗ•́ )
天狗ノ頭からの下りはまたこんな感じの道です。岩が濡れている時は絶対通りたくないですね。
ここは逆層スラブのエリア。
層になった岩が下を向いていますよね。ゆえに逆層です。スラブというのは表面に凸凹が少ない、滑らかな一枚岩のことです。登山では勘弁願いたいタイプの岩。それが逆層だというんですから困ったものです。
鎖が垂れていていますし、乾いていればそれほど滑らないので今回は特に難しく感じることはありませんでした。
間ノ岳へ向けた登りも、もう、こう、何? という感じの見た目。遠くから見ると恐ろしいですねこの縦走路は。
近づくと高度感も消えて何とも感じませんが。しかしトラロープと鎖のミックスですか。あまり体重かけたくないですね。
二本の鎖がザイルで結ばれているのにはビビりました。鎖は鎖で接続してほしい。゚(゚^ω^゚)゚。
11:00 間ノ岳
赤茶けた岩が積み重なった間ノ岳。ここも滑りやすいスラブ上の岩が散らばっています。要注意。
ここからいくつかの小ピークを経て西穂高岳にたどり着きます。ようやくゴールが見えてきましたね。
この小ピークを登るたびに「これが西穂じゃないの!?」とガッカリすることになります。
最初の「これが西穂じゃないの!?」です。西穂はまだ先。
これが二度目の「これが西穂じゃないの!?」です。次こそ西穂。゚(゚^ω^゚)゚。
P1よ呼ばれる小ピークには奥穂でも見た注意書きが。
やっとこさ危険区間を渡り切りましたね。
ここからハイマツの稜線を登っていくとようやく……!
12:00 西穂高岳
や
っ
た
!
『奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳』の縦走をやり切りましたよ!
嬉しすぎる。゚(゚^ω^゚)゚。
裏銀座から槍ヶ岳まで来て、そこからジャンダルムを歩く資格があるのかと自分を大キレット、涸沢岳で試し、満を持して挑んだこの縦走。トラブルもなく歩き通せたことがただただうれしいです。本当に憧れの道でしたから。
仕事をやめて長野を離れたとき、もうこのジャンダルムに挑戦できる日は来ないだろうなとぼんやり思ったことを思い出します。長野という北アルプスのお膝元に住んでいた時ですら挑戦しなかった難路にどうして長野を離れてから挑戦することがありますか。
仕事をやめた当時、日本一周は無事に完遂することを第一目標にしていたので山ではそんなに大変なチャレンジはするつもりがありませんでしたからね。道中近くを通った山を日帰りで登れたらブログのにぎやかしになるかなくらいの軽い気持ちでしたから。
それが挑戦を続けるにしたがってどんどん山に籠る日数が増えてきて、ついには『奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳』を歩き通すことができました。これが日本一周の醍醐味でしょう。挑戦を続けることで初めの自分には予想もできないことでできるようになる。この成長の実感は何よりの宝だなと思います。
旅を始める選択をして本当に良かったとここに至って思いましたね。今回の縦走は私の人生の忘れられない思い出になるでしょう。
ありがとう山。北アルプス!
振り返ると、ここを歩いてきたのかとビックリするような険しい山。何とも言えない嬉しさです。
笠ヶ岳、三俣蓮華あたりからここまでずっと存在感バリバリでしたね。私の事を見守っていたのか? ありがとう( •̀ᴗ•́ )
槍はもう辛うじて見えているといった具合。ここまで見届けてくれてサンキュー。
では焼岳方面に向かいますか。今日の寝床は西穂山荘です。西穂から乗れるロープウェイがあるのですが現在調整中という事で使用不可。今日中に下山することはできませんからね。もう一泊することにします。
まあ後はウィニングラン。ゆっくりと西穂山荘までの散歩を楽しみましょう( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )
13:20 チャンピオンピーク
と思っていたんですけど西穂高岳~西穂山荘間もだいぶ危ない!
へらへら歩いていたら容易に事故りますよ。゚(゚^ω^゚)゚。
最後まで気を抜かずに行きましょう。
タヌキ岩?
タヌキ……?
ぜんぜん楽そうな道じゃなくて笑いますね。ウィニングランどころの話ではありません。
13:40 ピラミッドピーク
ここから見ると西穂も中々に険しい。穂高はどれも舐めることはできませんね。
珍しく花なんか撮っていますね。この時、気分が良かったようです( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )
14:00 西穂高岳[独標]
にしほ(独標)/森山直太朗
このロープウェイが動いてさえいれば……!
14:40 西穂[丸山]
西穂高岳から西穂山荘まで結構長いですね!
そろそろヘロヘロなのですが!
山荘の屋根が見えたとたん力が抜けてきます。ようやく休めるのですね。もう少し頑張れ私。
しかしテント場小さいな。今日が日曜日で助かったかもしれません。
14:50 西穂山荘
西穂山荘到着!
よくやった私!
まずはコーラでHP回復。
山でのコーラはいつでも美味いですが、死地を越えてきた今日は一際美味い! 最高の御褒美です。゚(゚^ω^゚)゚。
コーラを飲んだらテント場の受付を済ませます。ここも一人2000円です。水は1リットル200円。
テントを設営したらお腹がすいたので山荘で軽食をば。西穂山荘はラーメンが美味しいと聞いていたのですが提供時間を過ぎてしまっていました。残念。焼きおにぎりでお茶を濁すことにします。
家庭用の西穂ラーメンが売っていたのでこれを夕食にしましょうかね。西穂山荘のラーメンは山小屋では珍しく生めんを使用したラーメンが売りなんですって。
このラーメンも実際かなり美味しかったです。二食入りで900円也。
夕暮れ時。なんて満ち足りた一日の終わりでしょうか。縦走の大一番であるジャンダルムにも無事に登れてあとは下山するのみ。日本一周中の登山としてとても花のある縦走ができたのではないかと思います。明日、新穂高温泉に下りてバスで下界に帰る。何の問題もありません。もうやり切りました。
そうするつもりだったのに心の中のリトル私が語り掛けてくるんですよ。
まだ行けない?
これ以上!?
ここからさらにどこに向かえというのか。裏銀座から南下して西穂山荘と言ったらほぼ北アの南端ですよ。ここからどこにも行きようは無いでしょう。気の迷いですね。ジャンダルムを越えて気分が高揚しているのでしょう。さっさと寝て落ち着くとします。
……縦走延長戦?
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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