下ノ廊下-2021-10-09 / fawtさんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
下ノ廊下
人の立ち入り難い秘境、神域、色々ありますが、その中でもここは特上のもののうちの一つではないでしょうか。
3000m級の山々に挟まれた黒部峡谷。
その自然の雄大さは言わずもがなですが、道中目にするダム建造物からはそんな自然と戦った人間の力も感じることができます。
秘境の豊かな自然と、先人の積み重ねそのものである人工物。
相反するそれらがこの下ノ廊下では調和し、ここでしか見られない美しい景観を作り出しています。
そんな下ノ廊下を今回ようやく歩くことができました。
一泊二日のちょっと危険なトレッキング、その記録をどうぞご覧ください。
下ノ廊下とは?
黒部ダムから仙人谷ダムまで伸びる約16.6kmの歩道です。
戦前から続く電源開発目的で日本電力が作ったことから旧日電歩道とも呼ばれます。
下ノ廊下に入る場合、一般的には黒部ダム~欅平間を移動することになるので、仙人谷ダムから欅平までの水平歩道と呼ばれる約13kmの歩道も渡ることになります。
黒部峡谷という自然の要塞に穿たれた足場は必要最低限の幅しかなく、転落防止の柵があるわけでもありません。
総距離約30kmの高度感のある狭いルートを集中の糸を切らずに歩き切らる必要があります。
開通時期は?
下ノ廊下が開通するのは毎年約2カ月弱。
北アルプスの奥地、黒部峡谷にある下ノ廊下は冬季に積もった雪がなかなか溶けません。
黒部の過酷な環境にさらされた桟橋や梯子も無事では済まず、雪が解け始めたタイミングで下ノ廊下の整備の手が入ります。
整備が終わるのが毎年9月ごろで、11月には歩道が凍結してしまいます。
残雪が多い年は開通しないこともあるという、通ること自体が貴重なルートなのです。
一日目 信濃大町駅より
今回の下ノ廊下は黒部ダムからスタートして欅平をゴールとするルートを通ります。
まずは信濃大町駅からバスで扇沢まで。
扇沢からは電気バスで関電トンネルを通り黒部ダムへと出ます。
欅平駅内に設置された『黒部の太陽』の記念パネルです。
黒部の秘境を歩くということでもちろん予習として『黒部の太陽』は観てきました。
先日観た映画の記念パネルが飾られているのを見てこの時点でテンションが上がります。
扇沢からは電気バスで関電トンネルを抜けて黒部ダムへ。
この関電トンネルが『黒部の太陽』の主要舞台で、黒部ダム建設の要となったトンネルです。
関電トンネル内を進んでいると青い光が見えてきます。
この青い光のエリアが破砕帯です。
この破砕帯ゆえに関電トンネルの掘削は困難を極めました。
人が吹き飛ばされるほどの噴水に、崩れる土砂。
破砕帯の存在は黒部ダム建設自体が危ぶまれるほどの障害でありトンネル工事は困難を極めました。
破砕帯はわずか80mほどでしたがこれを攻略するために約7カ月の期間を要しています。
映画『黒部の太陽』でも描写のほとんどはこの破砕帯との格闘に費やされています。
まだ下ノ廊下トレッキングは始まってもいないのに、この関電トンネルを通るだけで既に感慨深いものがありますね。
20分ほどバスに揺られて到着しました黒部ダム!
黒部ダム自体は以前に観光で訪れたことがありますが、全くその時とは心持が違いますね……
黒部ダムにでる方々は左の「立山・室堂方面」の案内板の方向に進んでいきます。
直進する案内板には「日電歩道」の文字が。
これこそまさに下ノ廊下へ誘う案内板です。
とはいってもいきなり下ノ廊下には向かわず、一旦は黒部ダムを見ておきましょうか。
黒部ダムはアーチ式ドーム型ダムで、その高さは186m。
日本で最も高く、世界でも最高クラスの巨大ダムです。
ちょうど放水するタイミングでした。
下ノ廊下を渡るとこの黒部ダムを下から見上げることになります。
放水中の黒部ダムを見上げる経験は中々得られなさそうなのでとても楽しみです。
さて、黒部ダムも堪能したところでいよいよ下ノ廊下へ入ることとしましょうか……
登山届を書きます。
リスクがあるのはどんな登山でも同じことですが、下ノ廊下ではそれが一層大きく感じられます。
登山届を書く時点で少し緊張してしまいますね。
秘境への第一歩。
「危い!」
あぶい!?
アブナイの送り仮名は表記によってバラバラで混乱してしまいますよね。
これからどんどん人気のないところに入っていくことを予感させる景色です……
とうとう始まったのか……
一歩隣はがけっぷち。少しの躓きも許されません。
絶景に殺される可能性も十分にありますからね。
景色に見とれていたら…… なんていう。
これからいくつもある警告板ですが見かけるたびに気が引き締まります。
黒部ダムから20分ほど下ってくると川が見えてきました。
ダムから放水されている水が作る流れです。
黒部ダム正面から見る放水はもはや爆発。
こんなアングルからダムの放水を眺めることができるのも下ノ廊下ならではですね。
ダムの威容、放水の勢いにただただ圧倒されます。
黒部ダム 上から見るか下から見るか。
この距離からでも放水の水しぶきが当たります。
凄まじい水量ですね。
しばらくは緑に囲まれながら下流に向かって進んでいきます。
徐々に山々に挟まれ川が狭まってきました。
峡谷のイメージ通りの景観が出来上がってきましたね。
まだまだ下ノ廊下のほんの入り口ではありますが既に
美しい!!!
エメラルドグリーンの川に、激しい流れが作る飛沫の白が写真に映えますねえ!
普段の登山ではなかなか目にすることのないタイプの景色にシャッターが止まりません。
夢中になりすぎることが危ないのですが、ドキドキワクワクを抑えるのもこの場所では容易ではありません。
それほどに素晴らしい自然に満ちています。
丸太橋すら珍しく感じて撮ってしまいます。
下ノ廊下のイメージとして持っているのが狭い通路に丸太橋だったので、実物を目にするとついに来たかというちょっとした感動がありますね。
……今後、辟易するくらい渡るのですがこの時はまだ新鮮な気持ちです。
まだまだ余裕を感じられる幅の登山道ですが、高さは若干上がってきました。
時刻は9:30
日が昇ってくるにつれて景色も色づいてくるところです。
補修資材が岩場の陰にキープされています。
下ノ廊下は入るのに別にお金がとられるわけではないんですよ。
経費としてはテント幕営台と交通費くらいのもので、それなのに毎年こんな危険な場所の補修をやって我々登山客の安全を守ってくれるんですから作業者の方々には頭が上がりません。
無骨ですがそれゆえに安心感がありますね丸太橋は。
丸く、濡れていると滑るので注意は必要ですが。
ここが天国ですか。
私の貧弱な語彙ではこの美しさはとても伝えきれません。
岩がえぐられた狭い道。
事前にイメージしていた下ノ廊下”らしい”道になってきました。
7kmほど歩いてきました。
ゴールの欅平駅まではあと23.4km。
果てしないですね……
散らずにまっすぐ一本に伸びる滝。
雨天時はほかにもいくつもの滝がみられるのだとか。
雨天時に下ノ廊下にいることなんて考えるのも恐ろしいですけどね(=_=;)
それっぽくなってまいりました。
気合を入れなおしますよ!
集中集中!
もうケガでは済まない高さです。
「黒部に怪我はない」とは有名な文言ですが、本当に助かる気がしませんね。
比較対象がないので大きさが分かりずらいですがかなり巨大な雪渓です。
10月半ばでこの大きさだと万年雪なのでしょう。
残雪の状況によって下ノ廊下の開通時期は大きく変わるので、比較的暖かいこの時期に通行できる私は恵まれているなと感じています。
緊張の時が続きます。
下ノ廊下ビックリポイントのひとつ大ヘツリの梯子です。
高所恐怖症の方にとってはかなりの難所なのではないでしょうか。
私も結構ひやひやしましたね。
丸太が太いのでつかんだ時に手のひらで覆いきれずグリップに不安がありました。
ここが下ノ廊下で一番のアスレチック建築物ではないでしょうか( •̀ᴗ•́ )
油断できないところが続きます。
本当に渡り方にバリエーションのあるコースです。
12:50 黒部別山沢
峡谷を進んでいくにつれて岩の圧が高まります。
それにつれて景色が美しくなっていくのは錯覚ではないはず( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )
厳しさは美しさですねえ……
厳しい……
ザックが少し当たったら落っこちてしまいそうですよ。
13:20 白竜峡
もうこの狭い通が水でビッシャビシャなんですよ(=_=;)
厄介さもバリエーションに富みすぎです。
この桟橋は渡ってるときは別に何ともないんですけど……
振り返ってみてみたらイカレた道過ぎて爆笑しました( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )
どう補修したんですかこの橋は。
絶対濡れるポイント再び。
下ノ廊下、ただでさえ注意が必要なところばかりなのに、通路に滝が流れているのは怖すぎます。
退屈しない道ばかりですよ。
14:20 十字峡
黒部川本流に劒沢と棒小屋沢が同じ地点で合流しています。
ゆえに十字峡。
十字峡にかかるつり橋を渡ります。
相変わらず恐ろしい道ですがずっと歩いていると危険さに慣れてくるんですよね。
それが最も危険なんですが。
岩の質も変わり景観は常に変化。
おかげで飽きが来ないので辛うじて集中力は保たれます。
14:50作廊谷合流点
ここはすごすぎます。
道が土砂崩れに完全に巻き込まれて消えています。
雪崩れた岩々の上を渡るのは非常にスリリングでした。
この土砂崩れエリアはシンプルに標高が高くて肝が冷えます。
道が狭くてワイルド。下ノ廊下です。
15:10 半月峡
スタタタタ……
15:15 S字峡
下ノ廊下は紅葉にはまだ早かったようです。
紅葉に染まった下ノ廊下もいつかまた訪れたいですね。
黒部川第四発電所です。
送電線の引き出し口が二つ見えますね。
ここは冬季の積雪や雪崩から守るために黒部ダムから10km下流のここに作られています。
景観を損ねないように全設備が地下150mの場所にあります。
東谷吊橋。
ここを渡ると次はいよいよ仙人谷ダムです。
なかなかの高度感ですがこれまでの道で高さの感覚がバグっているので恐怖を感じなくなっています。
しかし橋の隙間は大きく、気を抜いていると踏み外しかねないので要注意。
君さっきは「危い!」じゃなかった?
資材置き場でしょうか。
ここで小休止します。
先ほど渡った東谷吊橋が見えます。
トンネルを進んでいきます。
時刻は16:00
トンネル内はヘッドライトが要る暗さになってきました。
仙人谷ダムへ向かう車道を進みます。
めちゃくちゃデカいカエルにビビりながら……
仙人谷ダム到着です!
阿曽原は今日の宿泊地です。
案内に従ってダムの上を通過します。
ダムは橋代わりかな? と渡り切ると……
矢印は
屋内を指示しています。
そう。なんと下ノ廊下は仙人谷ダム内部がトレッキングコースになっているのです!
面白すぎるでしょう( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )
こんな登山は初めてです。
仙人谷ダム建設。特に欅平から仙人谷まで工事用資材を輸送するための軌道トンネルの掘削は、黒部ダムの大町トンネル掘削に負けず劣らずの難工事として知られます。
『黒部の太陽』の中でも主人公の父が現場指揮をとった黒三ダムの工事として描写がありますね。
吉村昭の名著『高熱隧道』ではこのトンネルの開通に至るまでの苦労が描かれています。
本当にすさまじい工事ですよ。
破砕帯にぶち当たった大町トンネルが水に悩まされたとするならば、この起動トンネルの大敵は熱です。
トンネル掘削中に高熱の断層に当たり、断層の温度は最終的に摂氏166度を記録。
岩盤からは熱湯が噴出し、発破用のダイナマイトは自然発火し暴発。
宿舎は雪崩に根こそぎ吹き飛ばされ、この工区での人命損失は233名にまで登りました。
高熱隧道は黒部峡谷の欅平と黒部ダムを結ぶ「黒部ルート」見学会に抽選で当たれば従業員専用トロッコで通過することができるようです。
何とロマンのある……
この画像の白いモヤは湯気。
先述の通り高熱の断層の影響です。
仙人谷ダムを出ました。
施設内はずっと暑かったので外の涼しい空気が気持ちいいです。
黒部ダムからここまでが旧日電歩道となります。
仙人ダム出てすぐに関西電力『人見寮』が見えます。
本当にご苦労様です。
さあここからは今日の宿泊地『阿曽原温泉』を目指すだけです。
と思いきやここから阿曽原温泉までが今日一で過酷な登り。
7時間以上歩いてきてラストにこの登りは非常に堪えます( ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )
阿曽原温泉到着
幕営地に到着したのは17時過ぎ。
薄暗くテント場もほとんど埋まっていたので空きスペース探すのに必死で写真を撮っていません。
今になって思えば撮っておくべきだった……(後悔先に立たず)
何とかテントを張ることができたので、すぐさま荷物を放り投げて倒れ込みます。
とにかく飯と酒です。小屋で購入したロング缶を胃に流し込みます。
本当に涙が出る程に美味いですね山での酒は。
この感動のために登っているといっても過言ではありません。
調理も億劫ですが空腹には勝てません。
今日の献立はチャーハンです。
パック飯を炒めれば自宅で作るようなチャーハンになるだろうという目論見でご覧の材料を持ってきましたが果たして上手くいくのか。
過去一で美味い山飯でした。
空腹時に山で食うチャーハン、泣きますね。
こんなにもうまいものが存在するのかと。
あとなんの料理をするにしても卵は最強です。
割れるかもしれないリスクを背負ってでも持ってくる価値があります。
空腹は収まらず棒ラーメンも開けちゃいました。
8時間くらいずっと行動していたわけですからね。
明日の活力とするためにもいくらでも食いたいくらいでした。
阿曽原温泉露天風呂
阿曽原温泉というくらいですから当然温泉があります。
食事を終えてダラダラしながら完全に陽が落ちてから入浴しました。
20時ごろだったか、混浴の時間帯だったので写真が取れなかったのが口惜しいところです。
露天風呂はテントサイトから10分弱下った所にあります。
結構遠いですよね。
斜面も急なので夜はヘッドライトが必須です。
温泉は脱衣所もなく、皆さん着替えはあたりに何枚か敷かれたスノコの上に置いています。
少し不便ですが山奥の秘湯に設備の充実を求めるのも贅沢な話。
先客に倣ってスノコの上に着替えを放り、体を洗ってからいざ入浴。
本当ね。
この時間帯に入って良かったですよ。
日が落ちるとあたりを照らすものは何もない真っ暗闇。
星がすごいんです。
この阿曽原温泉で見た星がこれまでの人生で一番美しい星でした。
温泉に浸かりながらただただ空を見上げてちょっと泣いてしまいましたもん(酒飲んでから泣き通しでしょう……)
いつまでも浸かっていたい気持ちになりましたが気力で這い出てテントへ帰りました。
湯自体は少しぬるめだったので着替えは手早く済ませないとあっという間に湯冷めしてしまいます。
単にテント張って寝るだけの場所かと思っていましたが、思わぬ感動に巡り合えて大変満足な気持ちで一日を締めることができました。
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